春の訪れ 生命という名の精霊達が活気づいてたくさんの音を連れてくる。 新芽の艶が孤狐舞蘭の好奇心を高ぶらせ ラスリン(Rustling) ラスリン(Rustling) 新緑の葉が擦り合わさる音が冒険心をくすぐり始める。 ラスリン ラスリン チャプターソング:時間…
日が昇り 日が沈む 狐がコンコン 孤狐舞蘭は夜童と森を自由自在に走り回る。 憂鎖蛇杜うさだとが奏でる生命リズム。 調和して生活リズム。 冬が来ると、凍てつく夜。 寒さを凌ぐため寄り添い眠る。 ときに風邪ひきコンコン コンコン コンコン 雪が森の床にそ…
憂鎖蛇杜うさだとの奥深く。 風、水、土、光が形作った空に伸びゆく木々 静かな見張り役のようにそびえ立っている。 ティックトック ティックトック 時計の針の音は遠い遠い響きに過ぎない。 秒を刻むことはなく、スケジュールが憂鎖蛇杜の動きに指示を出す…
ある日、探究心旺盛な孤狐舞蘭はいつものように森を探索していると、 影の中で奇妙なものが動いているのに気がついた。 警戒しながらも音を立てずに ソロリ ソロリ すり寄っていくと 「怖がらなくても大丈夫」 優しい囁き声が聞こえてきた。 「僕の名前はツ…
人間という器の孤狐舞蘭は森の生活に順応するにあたって 壮絶な苦労をせざるを得なかった。 だが実際は赤毛狐の夜童と常に遊び感覚で身に染み込ませていったので 自身はそこまで苦労したとの自覚はなかった。 学習、吸収能力は抜群 狩りも夜童と阿吽の呼吸で…
憂鎖蛇杜うさだとが送り出した赤毛の狐の子供として現世うつしよにとどまること 宿りし命の鎖で繋がった。 交わす契りのように揺れる木の葉の唇がみどりごに名を授けた。 孤狐舞蘭ここまら 孤狐舞蘭ここまら 孤狐舞蘭ここまら 人としては惨めで哀れな捨て子…
古い社やしろが見えてきた。 障子は全て朽ち果て 苔が屋根まで覆い完全に森の体の一部と化している。 赤毛の狐はくわえた赤子と共に社の縁の下の奥に潜っていった。 森全体を響くように濡らしていた泣き声が小さくこもった。 すぐ様赤子を我が子のように囲ん…
みどりごは似つかわしくない大き過ぎる紬にくるまれていた。 大きく育って生きて欲しいという願いが込められた母親のせめてものはからいだろう。 寄り添う岩、夫婦のようでも赤子にとってはそうは感じられなかった。 大声で泣きじゃくっていた。 憂鎖蛇杜の…
巻きつく蔦に朝露がキラキラ煌めきを与え 憂鎖蛇杜うさだとの息吹を感じさせている。 その先に二つの岩がまるで夫婦のように寄り添い鎮座していた。 二人は言葉を交わすことなく 苔の衣に包まれ、肩を並べるように佇む 夫婦岩の間のくぼみに愛子まなごをそっ…
憂鎖蛇杜うさだとの森。 主観的な人間の感覚をいともたやすく粉砕する絶対的な時の流れを持つ。 駆け引き遠慮のない虫達の大合唱がおさまり チュンチュン ヒューレイ チャピチャピチュー チュンチュン ヒューレイ チャピチャピチュー 鳥のさえずりに変わると…
今すぐにでも巨大な闇に食べられてしまいそうな か弱い提灯が二つ ゆらゆらと同じタイミングで揺れている。 「恐怖」という陰の本能を否応なく刺激する視界の閉ざされた暗闇 どれだけ歩いたであろう。 刻々 こくこく こくこくこく 濃く、一分が一時間か 薄く…
声をかけると提灯が妖怪のように ぴょんぴょん揺れながらまっすぐ向かってきた。 差し伸べられた旦那の手をとり立ち上がった。 そして 夫婦愛子まなごともに誰もが敬い畏れ尊ぶ 神の秘める深淵なる憂鎖蛇杜うさだとの森に辿り着いた。 隙間なく生い茂る木々…
茂る草の隙間からうっすらと浮かぶ顔を捉えようとしたとき 「わかってる。 憂鎖蛇杜うさだと の森に命みことを託しにゆくのだろう。 私も一緒に行かせてくれ。二人で最後を送ろう。」 旦那の声だった。 ほっとした母親は草むらに浸かるように尻餅をついた。 …
足音と共に提灯が近づいてくると我に返り 右手で匕首を取り出した。 間合いに入ってきた瞬間に踵の腱を斬り裂けるよう 鎌のように刃を内側に低く前に構え 赤子を左腕に抱き、褄下つました をめくり上げ 両足を曝け出し腰の重心を整えた。 大きく鳴り響いて聞…
蛍が一匹命みことの額にとまり 朧げに美しい光を点滅させた。 焦点の定まっていなかった名もなきみどりごの視線が 母親の顔で留まった。 まるでこの呪われた因果によって 母親の心を蝕んでゆくあらゆる陰の感情が見えているように そして本能的にその苦しみ…
この褐色かちいろ の負の螺旋一色に染められるべき呪いの色とは何なのだろうか? それほどまでにこの子の命は儚きものなのだろうか 誰も気にもとめない落ち行く葉の一枚のように ただ寂しく土に帰るのか 我ら一族がこの子の命を絶ってでも 隠したい真魔事の…
イメージソング&映像 イヤホン・ヘッドホンをお薦めします ぬくもり in the 森の Gentle Vow Sampling, Keys & Beats / SlipfuncLyric, Bass & Vocal / Minato Tojno 絡まる雑草達にまみれて息を潜め 赤子が泣かまいと包み込むように抱きしめた。 名もなき…
陰鬱な気持ちとは裏腹に 眼前には幻想的で魅惑的な光景が佇んでいた。 こんな状況からは予想だにしないワクワク感が 森に訴えかけられるように芽生えてきた。 イメージソング&映像 イヤホン・ヘッドホンをお薦めします ぬくもり in the 森の Gentle Vow Sam…
そろりそろり そろりそろり 道満ちた月の光に助けられ足音を 殺して町を抜ける。 ソリッゾリッソリッゾリッ りーん凛りん りりりんりーん りーん凛りんー ソリッゾリッソリッゾリッ りーん凛りん りりりんりーん りーん凛りんー 草履と鈴虫の音がリズムを奏…
時計の針のないこの時代 日の傾きと影の長さが時刻を告げる。 そして伸びる影も夜の闇に溶け込み 今宵の満月が高く目を開く 刻々 こくこく 村が寝静まった刻 一族の陰謀によってむざむざ無惨に 愛子まなご を殺させることなど到底できまいと 母親はこっそり…
首領は嘘をつく時 必ず親指を隠して拳を握るのを 子供の頃から見て知っていたからだ。 「我が子は首領が隠蔽する邪よこしまを着せられて葬られる。 命みことに罪はない。」 叫びを上げ苦痛に耐え 出産の峠を越え、母というひとつの頂をのぞみ 格段に、強さと…
再び魔羅マーラのあやす波の順ぐる音だけが 皆の耳元を占有する息苦しい陰気に包まれた。 首領の言葉を覆すことがどういうことか 重々承知している父親は とうとうその痛々しい沈黙を切り裂く勇気と精神力を勝ち得ることはできなかった。 その傍ら 母親は抱…
「苦境、苦労、苦痛を伴い運び出された上に なお一族に苦汁をなめさせる この呪われしみどりごはいずれ四苦を八苦、十六苦と 陰力凶まがつの旬あまねく波紋を生み堕とすじゃろう。 そうなる前に葬り去るべきじゃ。」 チャプター主題歌 イヤホン・ヘッドホン…
挿入歌・映像 イヤホン・ヘッドホンをお薦めします Lucifer Whisper Guitar, Sampling & Beats / Noria Lyric, Bass & Vocal / Minato Tojno ザリザリザリ 砂と草履のじゃれ合う音が 沈み黙りこくっていた空気を切り裂いた。 ザリ 我ら一族の首領。 「呪われ…
気枯けがれ、汚れ、穢れ、 母親となった女にはどれが真実かなどどうでもよかった。 産屋は静寂に包まれ 遠く脆弱に聞こえていた 波の順ぐる音だけが いつの間にか耳をつんざくように 繰り返し語りかけていた。 「おいでーおいでー」 「おいでーおいでー」 ま…
命みこと の 美しい琴の音色に触れ 高揚しきっていた鼓膜から 思考回路は陰気の流れの一途を辿り 忽然と転調 魔羅マーラ 波旬の韻律の虜となった。 出産に気力体力を使い果たし衰弱しきっている母親に 容赦なく、むしろ楽しむかのように恐怖を与える。 「こ…
儀式が幕を閉じ 海辺の産屋が再び静まり返ると 沈黙が結果を押し付けるように空気にさらなる陰が宿った。 夫婦は心の置き場を失い 日が沈み闇が訪れるがごとく 魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔羅魔…
オホンン! しゃがれた声に陽気を入れるように喉に風を通した。 両親の希望を一身に背負いながら詞を唱え始めた。 正方形の印を象り、皆を囲うように四人の祈祷師が各隅に配置された。 そして矢のない弓を空に向かって射った。 ピロロ〜ン ピロロ〜ン 魔羅マ…
「雨数魂うすたま の詞ことばを読ませよう」 不安で声を震わせながら、 父親が尋ねすがるように言った。 お産婆は目を細め、陰々たる惨たらしい右腕を見下ろしながら 「これほど深く暗く刻印された魔羅マーラ 波旬宿りし右腕 雨数魂うすたまの詞を白もう し…
目魔 の当たりにした 父親は愕然とした。 「月を経て、産声響かせ天涯より 運ばれし汚れなき命みこと に そのような受け入れ難しこと、 無惨なり。」 母親はお産婆の言っていることが 遠くで誰かが喋っている他人事のように聞こえていた。 イヤホン・ヘッド…